空中キャンプ

2010-05-18

なぜサリンジャーは奥さんに叱られたのか

米作家JDサリンジャーは、自分の娘に「フィービー」と名づけようとして、奥さんに猛反対されている。わたしはこの話を知ったときに、とても居心地がわるく、すこし怖かったことを覚えている。たとえば、マーティン・スコセッシが彼の息子に「トラヴィス」と名づけることはないだろうし、谷崎潤一郎が娘の名前を「ナオミ」にすることもない。ジョン・アーヴィングの息子が「ガープ」だったら、きっと学校でいじめられてしまう。村上春樹に双子の娘が生まれたとして、それが「直子」と「緑」だったとしたら、それはなんだかすごくへんだ。そういうことをしてはいけないと──自分自身の作り上げた物語に、みずからの実人生を過剰に仮託してしまってはいけないと──われわれはなんとなく気がついていて、だからこそ、自分の娘に『ライ麦畑でつかまえて』の登場人物と同じ名前をつけたがったサリンジャーはどこかいびつに見える。

サリンジャーが自分の書いた物語に飲み込まれていくようすはとてもふしぎだ。ストーリーは人を勇気づけたり、心を動かしたりするけれど、同時に人をのっぴきならない地点へと運んでしまうこともある。サリンジャーは彼自身のための治癒行為として物語を書いている側面があり、おそらくある時点までそれは成功しているのだけれど、どこかでしだいに調子がおかしくなり、気がつけば自分の書いた小説をなぞるようにしか生きることができなくなってしまった。結果として彼は森の奥で暮らすようになり、今年になってからひっそりと亡くなった。なぜそうなったのだろう。わたしは、サリンジャーにとっての物語のありようにとても興味があり、なぜ彼はみずからの作った物語から戻ってこれなくなってしまったのかをいつも考えているのだ。

こうしたサリンジャーの生き方と彼の作品について、できるだけわかりやすくまとめながら書いた小冊子『文学から見たアメリカ』を、いまわたしの新書『生きる技術は名作に学べ』を下記の書店でお買い上げいただいた方に、おまけとして差し上げております。サリンジャー追悼ということで、『ライ麦畑でつかまえて』について語るのはもちろん、それにならぶ代表作である「グラース家サーガ」(『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとゾーイー』『大工よ、屋根の梁を高く上げよシーモア─序章─』)についても書いてあります。サリンジャーまるわかりのミニ冊子です。フェアに協力してくださる書店さんがまた増えました! かなり広範囲に渡り、全国をおおいつくす勢いです。

フェアに参加してくださる書店さん一覧 NEW!
くまざわ書店 錦糸町店(錦糸町)
紀伊國屋書店 新宿南店(新宿・代々木)
有隣堂 アトレ恵比寿店(恵比寿)
啓文堂書店 渋谷店(渋谷)
大垣書店 フォレオ大津一里山店(瀬田)
ブックファースト 阪急西宮ガーデンズ店(西宮北口
ブックファースト 三宮店(阪急三宮
ジュンク堂書店 京都店(河原町・烏丸)
アバンティブックセンター 京都店(京都)
紀伊國屋書店 久留米店(西鉄久留米)

こちらの書店さんでもひきつづきフェア実施中!
丸善 丸の内本店(東京)
有隣堂 ヨドバシAKIBA店(秋葉原)
あおい書店中野本店(中野)
ブックスルーエ(吉祥寺)
紀伊國屋書店横浜店(横浜)
ブックスキヨスク 新大阪店(新大阪)
旭屋書店なんばCITY店(なんば)
三省堂書店 神保町本店(神田)
喜久屋書店小倉店(小倉)
紀伊國屋書店鹿児島店(鹿児島中央)

新書業界は回転が速く、ひと月単位で新刊が入れ替わるめまぐるしさなのですが、せっかくがんばって作った本ですので地道にプロモーションしていこうという気持ちです。ご協力いただいた書店員さんにも感謝しております。未読の方がいらっしゃいましたら、ぜひお近くの書店で手にとってみてください。

かしこ
伊藤聡拝