空中キャンプ

2010-10-18

フィフス・エレメント(その人に影響を与え、価値観を構成する要素となった5つの表現)

いぜん友だちと飲んでいたとき、〈フィフス・エレメント〉について教えてもらった。これは金髪のブルース・ウィリスが登場するリュック・ベッソンの映画タイトルではなくて、「その人に影響を与え、価値観を構成する要素となった5つの表現」を挙げていくという遊びである。誰しもそれぞれの〈フィフス・エレメント〉があり、5つの要素から見えてくるその人があっておもしろいとおもった。これを提唱したのは大根仁さんだそうで、スチャダラパーのBOSEさんはそれに答えて、みずからのフィフス・エレメントをこう答えていた。

  1. 『うる星やつら ビューティフルドリーマー』
  2. 植木等の無責任シリーズ
  3. 『ファンタジア』(ディズニー)
  4. 藤子・F・不二雄 短編集
  5. 『マトリックス』(Part1)

なるほどとおもう。特に『マトリックス』ってとてもいいですね。わたしも『マトリックス』はすごく好きだけれど、〈フィフス・エレメント〉に入れるほどだとは考えなかった。でもあらためてふりかえってみると、やっぱり『マトリックス』にはすごく影響されたとわたしもおもう。この5つの組み合わせがわれわれを納得させるのは、チョイスに見栄や気取りがないためだ。こういった要素を選ぶとき人はたいてい、いいところを見せようと気取ってしまいがちである。なんかこう、フェリーニとか、フーコーとかさ、いい雰囲気のやつを入れたくなるじゃない。よって個人的な追加ルールとして、「影響を受けやすい中学・高校時代のエレメントほど可」「ありふれたエレメント、恥ずかしいエレメントほど可」を主張したいのである。同様の質問を何人かにしてみたのだけれど、とある女の子の答えた『美味しんぼ』の答えがいちばんぐっときました。彼女の父親が『美味しんぼ』のまんがをよく買ってきていて、読んでるうちに、人生の困難を乗り切るヒントのほとんどを『美味しんぼ』から得るようになったらしいのだ。そしてわたしも自分の〈フィフス・エレメント〉について考え、おしゃれ心や虚栄心を取り払った真の5要素を確定させました。

  1. ベストヒットUSA
  2. ロードショー、スクリーン
  3. オールナイトニッポン
  4. ロッキング・オン
  5. いかすバンド天国

自分の5要素について考えたとき、なぜか単体の作品や個人ではなく、すべて雑誌や番組などの媒体であるのがふしぎだったのだが、ぱっと訊かれて即座に答えたのはこの5つだった。例としてあげると、高校時代にはスミスやニュー・オーダーを聴いていたが、それはつまりロッキング・オンを熱心に読んでいた結果としてこれらのバンドを知ったということで、影響されたのはむしろロッキング・オンだったのではないか、という風に考えたのだ。5つの要素のうち、まずはベストヒットUSAだが、「洋楽」の未知の輝きにはほんとうに圧倒された。ベストヒットUSAは、アメリカのヒットチャートをプロモーションビデオをかけながら紹介していくというテレビ番組なのだが、「よその国から入ってきた文化」に初めて触れた経験であり、その洗練された感じ、おしゃれなかっこよさに中学生のわたしは悶絶した。アメリカはかっこいいし、英語もかっこいい。よその国にはかっこいいものがたくさんあるという事実が衝撃だった。また小林克也の英会話にも魅了された。彼のDJがわたしが英語を勉強しはじめたきっかけにもなっているし、小林氏が、ピーター・ガブリエルを「ピートゥー・ゲイブリエル」と発音した瞬間になにかたとえようもない興奮がわき上がったことは忘れられない(ガブリエルじゃないんだ…!)。小林氏はわたしの個人史においてきわめて重要な位置を占めており、海外文化あこがれ、英語あこがれなどを日本から媒介していく意味でも象徴的な存在である。

ロードショー、スクリーンは中学時代に読んでいた映画雑誌だ。どちらかというとグラビア中心の、中学生でも読めるようなわかりやすい映画雑誌で、特にどちらの雑誌を買うとも決めずに適当に買っていたような気がする。これもまた「よその国から入ってきた文化」へのあこがれを助長した。映画は最先端のかっこいい表現だという刷り込みもこのふたつの映画雑誌によってなされた。雑誌を開けば、当時人気だったフィービー・ケイツのインタビューが載っており、「家にこもってゲームなんかしている男の子はキライ」という記事を読んで戦慄、自宅のファミコンを封印したこともある。オールナイトニッポンはラジオ文化にふれた最初の体験で、いまだに継続するラジオ愛のきっかけでもある。深夜になにやらたのしげな秘密の会合が開かれており、そこにこっそり参加するという興奮があった。ラジオは「他者といかにコミュニケーションを広げていくか」という点で学ぶことが多かった。毎日聴いていたが、いちばんもり上がったパーソナリティはとんねるず。わたしが高校生だったとき('87-'89)、とんねるずは考えうる限り最高におもしろい存在だった。ずーっとふたりのギャグをまねしていた。

ロッキング・オンは、高校生になり、文化的なものに対してよくわからない理屈をこねだしたわたしを魅了した。むろん「海外のロックあこがれ」をさらに増強させていった雑誌でもあるが、ロッキング・オンは議論や解釈といったより文化系な扉へと通じるものとして読んでいたようにおもう。つまりは自分の好きなものについてそれを言語化していくというプロセスである。言語化もまた、わたしにとって重要なエレメントのひとつだ。高校時代はザ・スミスに夢中になっていたが、それは音楽を言語化しながらたのしむという最初の体験であったようにもおもう。ロッキング・オン購読は、大学を卒業するあたりまで続いた。ギターを始めたのも高校時代であり、アマチュアバンドのオーディション番組として人気だったいかすバンド天国にもまた多大なる影響を受けた。別にこれといった才能がなくてもとりあえず表現はできる、ということをリアルに感じることができたムーブメントだったようにおもう。クラスの同級生がバンドを組んで、しだいに周辺高校でも名の知られた人気バンドになっていくといったできごとにもふしぎな興奮があった。バンドブームもたのしかった。文化系もヤンキーも一緒にもり上がれるところが実によかった。

自分の5要素を見てみて、読書にかんする影響を示すエレメントがないように感じたが、ここに村上春樹を入れると(高校時代すごくたくさん読んだ)エレメントがやや洗練されてしまってつまらないし、オールナイトニッポンやロッキング・オンなどからは本に関する情報も得ていたようにおもう。おもうに〈フィフス・エレメント〉に選ばれる表現は、できるだけありふれた要素であるほどその人の感性が見えるような気がして、なかでもとある女の子の挙げた「さくらももこ」という答えにはなるほどとおもったし、真の影響とは、自分がそこから影響を受けたということすら自覚していないほどに最初からそこにあった表現なのかもしれないな、ということを感じました。