自分の性を自覚する

録画しておいた『歴史秘話ヒストリア』で花魁の回を見る。歌麿って、ほんとロートレックみたい。吉原の女性たちの日常をみごとに写実している。
吉原といえば小野武雄『吉原と島原』が資料としては参考になるが、視線はどうにも男性のそれである。池田弥三郎『性の民俗誌』も、男性が性を懐かしむ文体だ(資料としてはみごと)。そういえば吉原を描いた漫画で安野モヨコさくらん』というのがあって、あれは見事だ。しかしあけすけな性と病、死ととなりあわせの遊女を描いている点では、もりもと崇『難波鉦異本』が、イメージのうえで貴重な資料となるだろう。漫画としてもすごく面白い。
吉原ではないが、男性による女性のイメージの問題をつかむ上で、若桑みどり『戦争がつくる女性像』は、男性が決して気付かないことを教えてくれる。
若桑みどりはすごい。彼女の『イメージを読む』と『イメージの歴史』とでは、ぜんぜんまなざしが違う。前著の後に学生とのゆたかな交流によってフェミニズムに目覚め、自身の長年の研究姿勢を疑ってかかり、後著においてまったく違う切り口で語った彼女。その柔軟さに、尊敬どころではない驚きを抱く。何歳になろうが、若輩の言うことに強く揺さぶられ、自己の思考を吟味し直す姿勢。わたしもそういう人間になれたらいいなあ。
マリリン・ヤーロム『乳房論』とかバーン&ボニー・ブーロー『売春の社会史』は、そもそも「女」というイメージがどのように形成されたのか教えてくれる。ラハブがただエリコの壁を崩した脇役「なんか」じゃないことを。
男性が多い牧師という職種でしかもわたし自身が男性ということもあり、思考がすぐ男根的になる。さりとてフェミニズムの専門家でもない。だから文学においても矢川澄子など、つねにアンテナを張り続けたいと思っている。