窒息事故を予防するために

 昨日のエントリー、嚥下障害者への食事介助は最も危険な医療行為に多くのブックマークとはてなスターをいただき、感謝申し上げます。タイトルのところにある「窒息」というタグをクリックしていただくと、関連エントリーが表示されます。あわせてお読みいただければ幸いです。
 窒息関係エントリーのまとめを行います。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【総論】


1.窒息による死亡の状況 ー人口動態統計よりー
 厚生労働省平成19年 人口動態統計(確定数)の概況第2表 死因順位(第10位まで)別にみた年齢階級別死亡数・死亡率(人口10万対)をみると、「不慮の事故」は死因の第5位となっている。死亡数は37,966人であり、全死亡数の3.4%である。特に若年者では比率が高く、0-19歳までは第1位となっている。
 第18表 家庭内における主な不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数・構成割合をみると、「その他の不慮の窒息」は3,762人30.3%(総数12,415人)となっている。特に0歳では106人の死亡中85人80.2%を占める。1-4歳においても80名中26名32.5%となっている。窒息による死亡は青年期には減少するが、30歳以上で再び増加し、65-79歳で1,154人、80歳以上で1,964名となる。「その他の不慮の窒息」の82.9%が65歳以上であり、窒息事故の多くが高齢者で起こっている。


2.食品による窒息事故に関する研究結果等について
 窒息事故に関する基礎的データとして、厚生労働省食品による窒息事故に関する研究結果等についてがある。研究結果 全体版(PDF:2,005KB))のうち、「窒息事故の現状把握調査」についてまとめると、次のようになる。


 消防本部や救命救急センターの事例をみると、様々な食物が窒息の原因となっていた。その中でも、穀類(餅、米飯、パンなど)が約半数を占めた。一方、10歳未満の小児では、菓子類、特に飴玉による窒息が多かった。65歳以上の高齢者では、基礎疾患がある者が多数となっていた。小児でも基礎疾患がある者がいた。年齢が分かっている者で、もちとカップ入りゼリーによる窒息事故の分布をみると、小児と高齢者に偏在していた。


* 参考エントリー


3.ハイリスク群の同定
 窒息に伴う重大事故を予防するためには、ハイリスク群を同定することが求められる。厚労省の調査結果をみると、子ども(特に乳幼児)、高齢者、基礎疾患を持っている者に対し、集中的対策をとる必要がある。基礎疾患を持っている者=摂食・嚥下機能低下者、と推測する。


【各論】
1.子どもの窒息事故予防
 子ども、特に乳児(0歳)および幼児(1-4歳)では、窒息事故による死亡が多い。乳幼児は摂食機能が未熟であり、安全な食物が何であるか判断することはできない。したがって、保護者が責任を持って、窒息を起こしやすい食物を遠ざける必要がある。特に、ミニカップ入りゼリー(こんにゃくゼリーを含む)、飴玉、ピーナッツなどの豆類の3つは、乳幼児に食べさせてはいけない。また、乳児用おやつの中にも危険なものがあり、安全対策のために規制を強化すべきである。


* 参考エントリー


2.高齢者など摂食嚥下機能低下者の窒息事故予防
 高齢者は加齢に伴い、嚥下機能が衰える。歯牙を失い、咀嚼能力が低下する。また、脳卒中後遺症、神経筋疾患患者、重度心身障害児などでは、摂食嚥下機能が低下することは稀ではない。
 口腔機能向上は、窒息だけでなく、誤嚥性肺炎を防ぎ、生命予後やQOLを改善させる。うがい・歯磨きの励行、齲歯や歯周病の治療など口腔ケアの徹底が効果的と言われている。
 摂食嚥下機能低下が重度になった場合、食事内容、体位、介助法などの工夫を行う。摂食嚥下機能低下者への食事介助は、窒息事故という危険がつきまとう。介護職の力量向上が不可欠である。介護事故に伴い、高額の損害賠償を命じられる事例も出てきている。施設介護においても在宅介護においても、対象者の病態を把握したうえで、介護者が安心して摂食介助を行うことができる環境づくりが求められる。そのためには、摂食嚥下リハビリテーションの普及が必要である。


* 参考エントリー


3.早食いによる窒息事故
 早食いによる窒息事故が報道されている。
 あらゆる食物は、そのまま食べると窒息の原因となりうる。安全に嚥下できる食塊とは、咀嚼をしながらつくられていくもので、ある一定の粘性と弾性がある。早食いというのは、咀嚼を十分行わずに飲み込むことに他ならない。少しずつ、よく噛んで食べる、という当たり前のことを守ることが、窒息事故予防にとって重要である。


* 参考エントリー


4.こんにゃくゼリー問題
 こんにゃくゼリーは弾性が強く、かたい。ミニカップから吸いこむという食べ方をするため咽頭に入りやすく、窒息事故を引き起こす。
 これまでも、「小さい子どもや高齢者が食べると危険」という表示をつけるなどの対策を業界はとってきたが、事故が続いている。こんにゃく「ゼリー」という通称に含まれている「ゼリー」という言葉が、安全な食べ物であるという誤認を招いている可能性もある。
 ミニカップ入りこんにゃくゼリーが店頭から消えて約1ヶ月となる。こんにゃくゼリー規制論にネットはなぜ反発するかに記載されているように、こんにゃくゼリー問題に関しては賛否両論が沸き起こっている。
 私の意見は次のとおりである。
 ミニカップ入りこんにゃくゼリーは、歴史がまだ浅いが、日本のこんにゃく文化に根づいたものであり、根強い愛好者がいる。ただし、弾性が強くかたいという物性、ミニカップ入りという形状、そして、ゼリーという誤認しやすい名称が窒息事故を誘発しており、安全性の点から見て未完成のものといえる。今後、長く愛される菓子類であり続けるためには、物性、形状、名称の変更を断行する時期になっている。少なくとも、ミニカップ入りという形状は捨て去るべきである。包装紙に包まれた和菓子のようなスタイルが生き残りの道となるのではないだろうか。


* 参考エントリー