実践!早期離床 完全マニュアル

 脳卒中急性期リハビリテーションに関する実践的なテキストはないかと思っていたところ、Face book上で本書が勧められていたので、病院図書として購入した。

実践!早期離床完全マニュアル―新しい呼吸ケアの考え方 (Early Ambulation Mook)

実践!早期離床完全マニュアル―新しい呼吸ケアの考え方 (Early Ambulation Mook)


 内容については、本書のホームページ、早期離床・リハビリテキスト「第1章早期離床を科学する」日本離床研究会に詳しく紹介されている。図表も多く、DVDまでついている。第1〜3章が総論および基礎知識に関わる部分で、第4、5章が実践篇というところのようだ。


 第1章 早期離床を科学する No.1 早期離床の意味とその歴史的変遷の部分をみると、早期離床の黎明期に関し、次のような記載がされている。

  • 1899年、Ries*1は婦人科手術後に早期離床を行った結果、早期から歩行が可能となったことを報告した。しかし、術後創離開等の合併症が主流だった当時にあっては、嘲笑の的でしかなかった。
  • 1940年代に、Leithauser*2が多くの症例で早期離床が安全であることを発表すると、次々と早期離床の成功例が報告されはじめた。


 本書では詳しく触れられていないが、日本の脳卒中リハビリテーションでも同じような歴史がある。1990年代前半、国立循環器病センターの山口武典らは、脳卒中急性期の数日間には、再発・進行が2〜5割みられ、座位により誘発される危険があるので発症後2週間は座位(頭部挙上位)を避けるべきという見解を主張していた。これに対し、近藤克則ら*3は、第1病日から座位にした群としなかった群で、再発・進行頻度には差はなく、安静を保っていても症状増悪は避けられないことを報告し、座位耐性訓練を提唱した。そして、脳卒中治療ガイドライン2009、急性期リハビリテーション*4では、次のように記載されるまでになっている。
 「廃用症候群を予防し、早期のADL向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもとにできるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)。その内容には、早期座位・立位、装具を用いた早期歩行訓練、摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練などが含まれる。」
 座位耐性訓練など時代遅れ、火縄銃みたいなものだと言われたことがある。確かに、時代はより積極的な早期離床に向かっている。脳卒中患者に対し、より積極的に早期リハビリテーションに取り組むことにより歩行予後も改善したという、A Very Early Rehabilitation Trial (AVERT)の報告*5も注目されている。


 第4、5章には、安全に早期離床を進めるために、どのような病態に注目し、リスク管理を如何に行うべきかが具体的に記載されている。
 本書は、実際に早期離床に関わる看護師やリハビリテーションスタッフ向けとのことだが、むしろ、リハビリテーション医療に関わる全ての医師にとって不可欠の知識を身につけるうえで役立つテキストではないかと考える。