塔のある風景 エルフの三つの塔

「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が…

「山へ行く」

萩尾望都はほとんど読んだことないのだが、「山へ行く」という題名に惹かれて読んだ。この作品で「山」が象徴しているものはなんだろう。 いや別に何かの象徴とかではなく、せわしない日常から脱して自然と一体になれる場所ってことでいいのかもしれないが、…

「四つの愛」は新訳が出ていた

「四つの愛」(蛭沼寿雄訳)を再読していたら、随所で理解困難な箇所があった。初読のさいはルイスの思想が難解、もしくはルイス自身の表現がうまくなくて言いたいことが伝わってこないのか、あるいは単に翻訳の問題なのか深く考えずに読み飛ばしていたが、…

ホビット映画続編の感想

海外で公開されてからこの数ヶ月、トールキンファン界隈での評価を読みたい気持ちをぐっと押さえ、できるだけ前知識は入れずに観てきた。前作と同じく、IMAX、HFR3Dで鑑賞。うーーーーーーーーん。原作と映画の違いとか、細かいこという以前に、何か感情移入…

“many a year” vs. “many years”

エルロンドの会議の中のガンダルフの台詞。It was Radagast the Brown, who at one time dwelt at Rhosgobel, near the borders of Mirkwood. He is one of my order, but I had not seen him for many a year.この for many a year に引っかかった。なぜ、m…

フロドはケツアゴだった!?

ガンダルフがバタバーに説明したフロドの人相なんですが。「だがこの者は一部のホビットたちよりは背が高く、大部分のホビットたちより色が白い。また口と顎の間にくぼみがある。…」(文庫2 p147)この「口と顎の間のくぼみ」は原文では he has a cleft in h…

永遠の絶望の滝

You Are Here: Personal Geographies and Other Maps of the Imagination作者: Katharine Harmon出版社/メーカー: Princeton Architectural Press発売日: 2003/10/01メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見るPersonal Geographies という…

ホビット映画感想(ネタバレ有り)

どうせ映画館で観るのなら、世界初というハイ・フレーム・レート(HFR)を観てみっかいと、3D、IMAX、HFRで観てきた。 いやーぶっ飛びましたね。 スクリーンサイズの巨大な窓の外にある現実の風景を眺めているような凄いリアル感。 カメラが縦横に移動するた…

バルログは飛べたのか

今度の映画ではモリアでのオークとドワーフたちの戦いも遡って描かれているという噂なので、追補編の「ドゥリンの一族」を読み直していたら次の記述が目に止まった。 これ(バルログ)はサンゴロドリムから飛来し、西方の大軍の来襲以来ずっと地の底に隠れひ…

ビルボは裏切り者か

ビルボのアーケンストーンの扱いに関して、動機はともあれ、あれは一種の裏切り行為ではないのかと思うむき(自分がそうでした。)はこちらの Drout 氏の文章がお薦め。ドワーフ=トーリン的情念に感情移入し、ドワーフ的ハッピーエンドを無意識のうちに望み…

バルログに翼はあるか

Do Balrogs Have Wings?作者: Andrew Rilstone出版社/メーカー: Lulu.com発売日: 2012/01/19メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る本のカバーになっている本棚の写真は著者のものだと思うが、この本棚の持ち主の文章なら是非読んでみた…

ワーグナーとトールキン

Wagner and Tolkien: Mythmakers作者: Renee Vink出版社/メーカー: Walking Tree Publishers発売日: 2012/06/20メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る特にワーグナー・ファンというわけではないのだが、前にニーベルングの指環(メトの…

The Hobbit 再読(4) tales of no time at all

ビルボが旅の帰りに裂け谷で聞いた物語。When the tale of their journeyings was told, there were other tales, and yet more tales, tales of long ago, and tales of new things, and tales of no time at all,この tales of no time at all 、邦訳は 瀬…

The Hobbit 再読(3) ビルボの夢

Exploring J.R.R. Tolkien's The Hobbit で面白かった箇所の一つ。ビルボたち一行がオークとワーグの襲撃から逃れ、鷲の巣で一夜を明かしたさいにビルボが見る夢の描写がある。 But all night he dreamed of his own house and wandered in his sleep into a…

Exploring J.R.R. Tolkien's The Hobbit を読む

今、ホビット一章読み終わるたびに、該当する章の解説として読んでいるのが Exploring J.R.R. Tolkien's The Hobbit という本。The History of The Hobbit のRateliff 氏が発売前からご自身のブログで薦めていたので、早速注文していた。すでにアンダーソン…

The Hobbit 再読(2)cook better than I cook

I am a good cook myself, and cook better than I cook, if you see what I mean. ビルボがトロルに食べられそうになったときに言う台詞。この cook better than I cook の部分、次のように解釈していた。自分が(ふだん)する料理よりも、ずっと上手に料理…

The Hobbit 再読

ホビットの冒険の映画公開も近づき、映画観る前に原作の記憶を新たにしておこうと思い、久方ぶりに読み始めた。 (本にメモしてあった記録によれば16年ぶりになる。)原書で読むのはこれが二度目。以前読んだときに英文の意味がよくわからなかった難所(邦訳…

The Legend of Sigurd and Gudrún メモ

一、オーディンはたとえその試みがすべて潰え、目をかけた人間がすべて死んだとしても、彼の遠大な計画は「最後の戦い」のためにあり、オーディンの「希望」を奪うことは出来ない。ロキによる「悪」の影響も、オーディンの計画に結果として寄与することにな…

偶然見つけたんですが

「超英語法」野口悠紀雄を読んでいたら、英語リスニングの注意点として、語尾にある子音(t、g、dなど)が発音されないことがある点を指摘した後、次のような記述があった。 なお、自分で発音する場合、このルールに従う必要はないだろう。実際、このルー…

C.S.ルイスの「心霊」体験

「悲しみをみつめて」に、亡くなったルイスの奥さんの「霊のようなもの」がルイスを訪れた体験が記録されている。 「それはまるで嘘のように非情なものだった。彼女の心が、いっときわたし自身の心と相対した、まさにそのような印象。 心であって、霊という…

Tolkien Studies Vol.8

Tolkien Studies 8を購入。最近のTolkien Studies は新刊が出てもアマゾンなどでは扱っておらず(バックナンバーがマーケットプレイスで法外な値段がついてたりする)、版元のWVUPから買うのが早いことに気づいてからは、WVUPのホームページから直接注文する…

トールキン・ジグソー

「ビルボの別れの歌」のジグソーパズルをebay で落札。 前からポーリン・ベインズによるこの絵のポスターに憧れており、何度かebay で検索したりしていたのだが、以前ブログの記事に書いたベインズの原画を見かけたことがあるだけで、ポスターの形で売られて…

トールキンの魅力の一例

"the sense that the author knew more than he was telling, that behind his immediate story there was a coherent, consistent, deeply fascinating world of which he had no time [...] to speak." (Shippey) 著者は今語っていることの他にもより多く…

塔のある風景 エルフの三つの塔

「西境の先の塔山には、遠い遠い大昔のエルフの塔が三つ、今なお立っているのが望めた。それらははるけく月明に輝いた。一番高い塔が一番遠くにあり、緑の小山の上にぽつんと一つ立っていた。西四が一の庄のホビットたちによれば、その塔の頂きに立つと海が…

トールキン的な音楽(2)

前述のBratman氏のエッセイの中に、トールキンの好きな作曲家として、「魔弾の射手」のウェーバーの名前があがっていた。(情報元はトールキンへのインタビューで、ハモンド&スカル夫妻の Companion & Guide の Music の項に記載あり。) それで思い出した…

トールキン的な音楽

先日届いた Middle-earth Minstrel: Essays on Music in Tolkien を読む。最初にDavid Bratman 氏のエッセイから読み始める。エッセイの中心はトールキンにインスパイアされた曲や歌(メージャーどころでは、ヨハン・デ=メイやハワード・ショアからドナルド…

「追っかけ」と「敵中突破」

「黒澤明の作劇術」(古山敏幸)という本を読んでいたところ、「隠し砦の三悪人」について以下のような指摘があった。 「映画『隠し砦の三悪人』は、よく「おっかけ形式」の時代劇と言われる。黒澤本人がそう発言してるからだが、より正しくは敵中突破ものと…

ジャケ買い

こんな本が出ているのを見つけた。 LotRをユング的に解釈する ―という試みが面白いかどうかはさておき(*)、ジャケの絵がいかにもサイコドラマふうというか、チャーミングさと気持ち悪さが同居している不思議な魅力につられ(*2)、注文してしまった。*…

Going off into the Blue

The desire of my spirit urges me to journey forth over the flowing sea, that far hence across the hills of water and the whale's country I may seek the land of strangers. No mind have I for harp, nor gift of ring, nor delight in women, nor…

The Legend of Sigurd and Gudrún

発売後すぐに入手したものの、冒頭の解説で投げ出したままになっているThe Legend of Sigurd and Gudrúnなのだが、先日、トールキン財団のホームページを覗いたところ、いつの間にかコンテンツが増えてきており(イントロの動画がお洒落)、そこにクリストフ…