ヘッジファンドは国家の規制を逃れるため、タックス・ヘイヴンを本拠地にしている。

これらソロス氏に頼っているヨーロッパの中央銀行や大手銀行の中には、長い歴史を誇る国家や王室、旧貴族階級からその膨大な資産運用を任されているところが多い。そのことがまた、ソロス氏のパワーの秘密ともなっている。

また、これらヘッジファンドは国家の規制を逃れるため、別の言い方をすれば税金逃れのため、ケイマン島バミューダ諸島ジブラルタルや香港など、いわゆるタックス・ヘイヴンの国や地域を書類上の本拠地にしていることが多い。不思議な偶然の一致か、これらの「免税天国」は、いずれも大英帝国領だったところやオランダ領ばかりである。

たとえば、ケイマン島には、先に紹介したLTCMをはじめ六百近い銀行や信託会社を含む二万社の登記上の本社がおかれている。もし、LTCMの資産運用に疑問を持ったアメリカの会計検査官が帳簿を調べに訪れたらどうなるか。

ケイマン島の法律で、その検査官はその場で逮捕となる。しかも、その法律を執行するケイマン島の知事も司法長官も、いずれも英国政府の任命によるのである。

ソロス氏は旧ヨーロッパ帝国の国有財産ばかりでなく、新資本主義帝国アメリカの投資財産の運用も任されている。その資金を背景に旧ソ連や東欧諸国に自ら乗り込み、「オープンな社会作りを支援する」との名目で、相次いで「オープン・ソサエティ」を設立している。だが、彼の本当の狙いは果してそれだけかどうか、そのことを語るには、ひとまずソロス氏の生い立ちから辿らねばならない。