万葉集釋注 一


集英社文庫ヘリテージシリーズ 萬葉集釋注 1
【タイトル】  万葉集釋注 一      はてな年間100冊読書クラブ−No.016
【著者】    伊藤博
【出版社】   集英社(集英社文庫ヘリテージシリース)
【発行年月日】 2005年9月21日
【版型 頁数】 文庫版 618頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4087610101
【価格】    1000円
【コメント】
本書は全10巻の第1巻、1995年に同社より出版された『万葉集釋注 全13巻』の本文10巻分を文庫化したもの。集英社創立80周年記念の『集英社文庫ヘリテージシリーズ』として刊行された。著者は筑波大学名誉教授(当時)、戦後の万葉集研究の第1人者で関係の論文、著作も多数ある。
本書は万葉集全20巻のうち、巻一と巻二を取り扱う。万葉集の全訳・全解説はこれまでにもたくさん出版されているし、個人研究者によるものもいくつも出ている。*1そんな中で本書の特徴はこれまでに出版されたものと違い、『一群の歌の時代背景を生き生きと語る歌群解説』ということになる。万葉集においては、作者によりまた時には編者により複数の歌の群、即ち歌群が構成されている。これまでの万葉集研究書は1首1首の解釈・背景に関する個別の記述であり、関連すると考えられる歌の集まり、歌群としての位置付けが不十分だったと著者は考えたようだ。これらの歌群はそれだけで1つの物語を形成する。また複数の歌群の間にも内的な関連があり、それらを総合的に連携していくと各巻が、ひいては万葉集全体が1個の壮大な物語を形成するというのである。そこで本書では歌群を説明する際に、釈文(解釈)を自由に繰り広げた後に語注を控えめに置くという手法で全体を描いている。その結果1つの歌群から関連する歌群へ物語が連携して展開され、全巻が1つの“万葉集物語”として語られることになる。そういった意味で過去にない、独創的なスタイルの記述といえるのである。
万葉集の魅力は古代人の素朴ではあるが、雄大で大らかな気性・気風が感じられること、何か人間の最も基本的な想いを率直に歌に託すという姿勢にあると思われる。和歌の技法からみるとまだ未成熟であるところもまた我々素人には親しみが湧きやすい。一方古今集あたりではその技法も巧みになり、洗練された高度な文学性が感じられる。しかし万葉人の素朴で率直な思いが出た万葉集の方がずっといいし、心に残ると思う。この辺はどうやら正岡子規の影響が相当に強いようである。
まあ文学史的な評価はともかく、各人が読んでみていいなと感じたらその歌はいい歌なのだということでいいのだろう。音楽と同じだ。聞いた後いい曲だったと思うことができたらその瞬間とてもシアワセな気分になれる。そこに理屈はあんまり必要ないのだ。ただし現代的音楽の歌詞なら我々にも十分理解できる場合が多いが、1300年も前に書かれた万葉集の意味を理解するためにはその時代的背景、社会情勢、人物像など歴史的な側面を知らなければいけないし、古語にも詳しくなければいけない。ということで良質の参考書・解説書が私には必要だ。周辺の歴史書、古語に関する書物・辞書も必要だということになる。本書は全くの素人が読むにはかなり高レベルであり、分量も半端ではない。しかし何とか読みこなさなくてはいけないと思っている。未読のまま死ねないと思う。古事記日本書紀も・・・・・・。
去年8月だったか、発売直前に突然その企画と刊行が発表され大変興奮して書店に駆け込んだ。9月に6巻、12月に残りの4巻が出た。すぐに店頭から消えるだろうし、ここで買い逃したら後で集めるのに苦労しそうだったので迷わず全巻そろえた。実は豪華本を買おうかどうか迷いに迷っている最中だった。だからこの企画には一にも二にも大賛成、大満足である。しかしこれほどの大型出版がこんなに短い期間に行われるのも異例だし、豪華本が出版されて10年程で文庫化されるのも異例であろう。版元によれば当分の間両者併用で販売するという。結構なことだ。
最近の文庫出版において大変に気になっている事がある。講談社学術文庫ちくま学芸文庫が名著を文庫化した際に、初刷りのみで一度品切れにして、数年後に再刊するという岩波文庫スタイルに習ったやり方をしているようだ。但し岩波文庫と大いに違うのは文庫価格を大変に“高く”設定している点だ。200頁もので1000円、400頁になると1500円以上はする。一般の文庫と比べて2倍以上の価格だ。おそらく他の文庫本に比べ、1刷あたりの部数が少なく設定してあり、運賃など節約して一気に売って資金を回収し、出来るだけ早く品切れにしてしまおうという意図のようである。こんなやり方はどうかと思うのだが・・・。その方が名著に箔がつくとでも思っているのだろうか?出版社側に言わせれば『要するに経営の問題さ』というのだろうねきっと。
この集英社文庫万葉集釋注は前記の2文庫と違い、良心的な価格での出版で、一読者として納得の価格となっている。しかし第2刷以降を継続的に品切れにせず刊行しつづけるのかどうか難しいところだ。1刷のみで後は品切れが長く続くようだとやはりここで全巻購入が正解だったといえる。
何れにしても本というのは読んでから何を感じ、どう考えるかが重要なのだ。とにかくこの大作を読破し、簡単ではあるがメモなどとって、少しぐらいの考えをまとめるようにしたいと思う。それにしてもこの大部の本が後9冊もあるのかと思うと気後れしてしまいそうなので、できるだげ気軽に考えようと思う。誰かに『何時読み終わる予定?』と聞かれたら、『分からない、まあ死ぬまでにはね!!』とか答えようと思う。
【目次】
省略

*1:古くは契沖、本居宣長賀茂真淵、近現代の土屋文明武田祐吉、澤瀉久孝、中西進など