霧隠才蔵  決定版真田十勇士


決定版・真田十勇士 霧隠才蔵 (集英社文庫)
【タイトル】  霧隠才蔵 年間100冊読書クラブ−No.059   
【著者】    宮里 洸
【出版社】   集英社集英社文庫み36−5)
【発行年月日】 2005年12月20日
【版型 頁数】 文庫版 261頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4087478955
【価格】    500円
【コメント】
信州は戸隠の忍者・霧隠才蔵の活躍を、真田幸村らの武将らの行動、歴史記述と絡めて描く時代小説。『これから出る本』、『新刊ニュース』などの紹介文を読んで、是非読まねばと思い購入したが、期待していたほど面白くは無かったというのが正直な感想だ。
どうも物足りない感じがするのは幾つか理由がある。まず第1に著者の文体である。時代小説には特有の武家言葉、文語調の表現などが使われる場合が多い。映画やテレビの番組でもそうだがこういう言葉は何故か重々しく、硬い印象を与えるが、歴史的な内容・武士の実生活などを考えるとこういう言葉が使われていたのかなどと納得してしまうものがある。本書ではこれらの武家言葉があるところでは使われているのに、あるところでは使われず、なんと現代的話し言葉が出てきたりする。だからなんだか文体の統一感が無く時代小説らしくない。
第2の理由は、忍者の用いる“忍術”である。どうも奇想天外な術をそれぞれの忍者に使わせようとしているようだが、全くの表現不足であり臨場感というか実際の様が頭の中で想像できない。だから何のことだか分からない。これでは忍術の面白味がまったくといっていいほど伝わってこない。
第3の理由はストーリー展開である。意外性を盛り込んで、ハラハラドキドキとさせるような“仕掛け”が殆ど無く、各章のタイトルと最初のあたりを読むとストーリー展開が読めてしまう。だからいつも冷静であっさりと読めてしまうわけである。
どうも最初に期待していたほどの感激も無く、平坦で穏やかな気持ちで読み終えてしまった。まるで忍者活劇の面白さを見出せなかったと言って良い。
とかなり悪い評価になってしまった。しかしこれが正直な印象である。さてこの著者が今後どのような作品を書くのか分からないが、もっと多彩な日本語を書く、ストーリー展開に捻りを入れる、強調したい場面・読ませる場面にはもっと迫力のある表現を用いるなど課題は多い。著者の今後の精進を望みたい。