三十三 昔のこと。 男に、摂津の国は菟原(うばら)の郡に通っていた女がいて、その女が「彼が今、京に行ったら、ここには二度と戻ってこないだろう」と思っているような様子だったので、男はこう言った。 葦辺より(葦が生い茂っている岸の辺りから 満ちくる潮の(満ちてくる潮の いやましに(水がいよいよますます増してくる 君に心を(そんな風にあなたに心がひきよせられて 思ひますかな(思う気持ちが増していくのですよ これに女がこう返した。 こもり江に(人目につかないこもり江のように 思ふ心を(ひそかに思う私の心を いかでかは(どうして 舟さすをの(あなたは、舟を動かす棹をさすように さして知るべき(それと指し…