ピアノ奏者や弦楽器奏者や管楽器奏者から指揮者に転向した例となれば、いくらでも思い浮かぶし、兼業してそのどちらでも成功している音楽家の名前をすぐさま挙げることができる。しかし、声楽家から指揮者に転向した事例となると、いろいろと考えてみて、声楽家としては果てしなく偉大でありながら、晩年の指揮者としての活動はパッとしなかったディートリヒ・フィッシャー=ディースカウやプラシド・ドミンゴをかろうじて思い出すぐらいだ。ましてや、声楽家と指揮者の両方を同時に追求していた音楽家となると、まったく前例がないように思う。だからこそ、バーバラ・ハンニガンの歌い振りはますます革新的に思われる。 1971年生まれのハン…