分析哲学者。タフツ大学教授、同認知科学センター所長。専門は心の哲学。
著書 『解明される意識』 ISBN:4791755960 『ダーウィンの危険な思想―生命の意味と進化』ISBN:4791758609 『「志向姿勢」の哲学―人は人の行動を読めるのか?』 ISBN:4826900686
http://ase.tufts.edu/cogstud/~ddennett.htm http://ase.tufts.edu/cogstud/
以下、《人間の自由や責任の存在をデネットはいかにサポートするか》を説明する。そのさい参照するのは『自由は進化する』(山形浩生訳、NTT出版、2005年)や『自由の余地』(戸田山和久訳、名古屋大学出版会、2020年)である。 じつにデネットにおいて〈責任をとる〉あるいは〈責任を負う〉という実践は或る種の「進化的な」プロセスを通じて生じる。そのプロセスは――いろいろ言葉を補って再構成[*]すれば――次のようなものだ。 [*] 後述の「罰してくれてありがとう」を理解可能にするための抜本的再構成である。 いまだ「お前が悪い」と互いに責め合ったりすることのない、一定の生物個体群が存在するとする。そして―…
門井慶喜『文豪、社長になる』文藝春秋 (2023) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 感想 文春砲という言葉が文藝春秋のイメージを若干悪くしているように見えるが、創始者の菊池寛という人物に、自分は人間としての温かさ、豊かさ、寛容さを見た。ネガティブで悲観的なところもあったが、全体的に見て好印象を抱いた。 横領が発覚して、解雇した人間から仇討ちを食らってもあまり動じず、「なんだあいつは」と怒るような素振りを見せずすぐに散乱した事務所を片付けるように指示したところ、良くも悪くも部下を完全に信頼しているところ、最後まで出版だけに人生を捧げたところ、全部含…
20世紀の哲学は、前例のないほどの多様性と深みを持っています。この時代には、存在論から倫理学、政治哲学に至るまで、人間の思考と存在に関する根本的な問いが提起されました。ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインからジュディス・バトラーまで、ここで紹介する10人の哲学者は、それぞれ独自の視点からこれらの問いに答えを出し、後世の哲学に大きな影響を与えています。初心者の方々にもわかりやすく、それぞれの哲学者の核心的な思想を500文字で紹介していきます。 1. ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン ウィトゲンシュタインは、言語とその意味に焦点を当てた20世紀を代表する哲学者の一人です。彼の主著『論理哲学論考』で…
裏切り者は誰だったのか CIA 対 KGB 情報戦の闇 ハワード・ブラム 芝瑞紀、高岡正人 訳原書房2023年9月5日第一刷THE SPY WHO KNEW TOO MUCH (2022) 2023年11月25日 日経新聞の書評 に出ていた本。図書館で予約していたのが、ようやく順番が回ってきたので読んでみた。 書評にあったのは、「本書は冷戦期米ソ間の熾烈(しれつ)なスパイ戦を描いたノンフィクションだ。大筋は米国中央情報局(CIA)に潜り込んだソ連国家保安委員会(KGB)のスパイが誰なのか、その真実を50年にもわたって追い続けたCIAの敏腕スパイ、ピート・バグレーの物語である。バグレーは2014…
哲学者のダニエル・デネットらの研究によれば、心の中の知識や信念に不一致を見出したときに、ぼくたちはおかしみを感じて笑いが起きる、という。ぼくたちの脳はたくさんの情報を高速で処理している。ときには不完全な情報のなかで知識や信念を形成している。そのため、どうしても現実との不一致が生じる。その間違った信念に基づいて行動すると、生存が危うくなる。だから、心の中の信念や知識のバグ取りの報酬としてユーモアの情動が生まれた、という説である。そのユーモアの情動という報酬を求めて、コメディやジョークといった笑いの文化を発展させてきた。 たしかに漫才をものすごく単純化すると、観客に次の展開を予測させる「フリ」、そ…
ディアスポラ 作者:グレッグ イーガン 早川書房 Amazon 『ディアスポラ』グレッグ・イーガン著 山岸真訳を読む。物理学書、宗教書(?)と思って読めばいいのかな。と覚悟して読んだら、そうでもなかった。 翻訳がいいのか、歯が立たなくてもへっちゃら!と非-SF者を勇気づけてくれる解説がいいのか。 何せ舞台は30世紀。肉体なんて野蛮なダサイものは脱ぎ捨てて、人間は「ソフトウェア化」しているって、どーよ。霊性、スピリチュアル・ユニティ。ただそんなのはヤだと肉体をまとい生きている人間もいる。身体、鍛えなくていいから楽だとか、そういう短絡志向の人は、パロディやパスティーシュでも書けばいい。 人類が目論…
目次 進化との遭遇 煽られたのがきっかけ 「ポータル」としての『進化論という考えかた』 進化との遭遇 わたしはいちおう進化生物学を専門にしていることになっている。*1 20年前に進化生物学にハマったのは明確に『進化論という考えかた』の影響だった。それは20年前は出たてほやほやだったとはいえ、すでに20年という、当時産まれた子供がすでに成人しているぐらいの時間が経った。少なくともそれ自体はそのときのわたしにはいい本だった。それまで生物学を勉強したことがなかった(でもすでに専攻が生物学と決まっていた)健康優良電子機器解体青年児マンが「進化やべえ」と思った。進化論という考えかた (講談社現代新書)作…
おみくじ大吉でした。 なんだか嬉しいですね。
1月末の〆切が多すぎて、途方に暮れている。 とにもかくにも、ブログなんか書かずに処理しなくては。 しかし、色々とネガティブな感情が湧き上がってくる。 こういうとき、考えてしまう。 「クオリアなんかなければ良いのに」 「なぜ人間はクオリアなんか持ってしまったんだ?」 クオリアなんて無い方が、良いんじゃないか? しんどいとか、不安だとか、嫌な気分だとか、そういう主観的な意識体験などない方が、さくさくと能率的・合理的に仕事を進められるはずだ。 その代わり、生きていても、楽しいとか幸せだとか、そういう感覚を覚えることもないわけだが。 なぜクオリアなんか持ってしまっているのだろうか? 太古の昔、クオリア…
宗教の起源作者:ロビン・ダンバー,小田哲白揚社Amazon 本書はダンバー数で有名な進化心理学者ロビン・ダンバーが宗教を語る一冊.これまでに宗教を進化的に説明するものとしては,(宗教が信者に誤信念を抱かせ,儀式等にコストをかけさせることから個体にとって適応度を下げるものであることを前提にして)進化的に形成された適応的な認知傾向による副産物だとするもの(アトラン,ボイヤーなど),原始宗教は副産物であり,さらに組織化された宗教にはミーム複合体の側面もあるとするもの(デネット,ドーキンスなど),文化進化として説明するもの(ライトなど),マルチレベル淘汰をもちだして集団や社会にとって適応的であると説明…
20世紀の哲学の幾つかの潮流に見られた特質の一つとして、哲学と芸術作品との接近が挙げられる。もちろん、それ以前の哲学にも芸術を論じるものは存在したが、それらは得てして自らの哲学的見解を通した芸術作品に対する美学的分析という域を出るものではなかった。20世紀の哲学の幾つかの潮流と芸術作品との接近とは、そういう以前に見られた現象とは異質な性格を持っている。 哲学者が論じるべき対象としての芸術作品を眼前に定立して、これを分析のふるいにかけて「料理する」というものとは違って、芸術作品の生成や芸術家の創作体験に存在者の存在の開示のされ方として接近していった。その典型が、フッサールの現象学の圏域で思考を始…
ダーウィンの呪い (講談社現代新書)作者:千葉聡講談社Amazon 本書は千葉聡による「ダーウィンの自然淘汰理論」(特にそれが社会にどのような含意を持つかについての誤解や誤用)が人間社会に与えた負の側面(本書では「呪い」と呼ばれている)を描く一冊.当然ながら優生学が中心の話題になるが,それにとどまらず様々な問題を扱い,歴史的な掘り下げがある重厚な一冊になっている. 冒頭ではマスメディアがしばしばまき散らす「企業や大学はダーウィンが言うように競争原理の中でもまれるべきであり,変化に対応できないものは淘汰されるべきだ」という言説を,まさに「呪い」であると憂いている.そしてそれが「呪い」であるのは,…
・ ・ ・ 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。 ・ ・{東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・ 日本の葬式仏教と冠婚祭祀神道とは、棲み分けをして、いがみ合わない、争わない、競わない、曖昧にして消極的な後ろ向き宗教である。 それ故に、日本には不寛容で排他的な絶対真理による神学論争や宗教における対立・戦争・虐殺の経験は乏しい。 ・ ・ ・ 2023年9月12日 現代ビジネス 学術文庫&選書メチエ編集部「「利己的遺伝子」のスター科学者、ドーキンスが到達した「日本人みたいな宗教観」 原理主義化する「新無神論」 聖書の記述をそのまま信じ、学校教育から進化論を排除しようとする創造論者と、科…
2015年の7月からぼくは「読書メーター」というウェブサービス(アプリも提供されている)で読書記録をつけ始めた。いま振り返ってみると、いまに至るまでにぼくは1500冊ほどの本を読んだのだという(いや、正確にはぼくは同じ本を2回読んだら2冊とカウントしていることは断っておきたい)。つまりぼくは、2日に1冊本を読んでいることになる。ああ! このことを確認したい。どうして、ぼくはこんなにもたくさんの本を読むのか。わからない。でも、なんにせよぼくにとって本は大事なパートナーだ。パートナーだからベッドだって一緒だ。今日はクリスマス。でも、いつも通りの過ごし方をしてしまった。病院に行き、そこでドクターと会…
吉川浩満『理不尽な進化』(ちくま文庫)を読む。副題が「遺伝子と運のあいだ」。第1章は地球上の生物種が過去99.9%絶滅していると驚くべき指摘がされる。ほぼすべての種が絶滅する。生き残っているのはわずか0.1%に過ぎない。しかしそれは適者が生き残ったのではない。地上の栄華を誇った恐竜は巨大隕石の衝突による気候の変動で絶滅した。 適者が生存するのではなった、単に運が良かったに過ぎない。絶滅したのは運が悪かったのだ。理不尽な理由で絶滅したのだ。今まで5度の大量絶滅があった。オルドビス紀末、デボン紀後期、ペルム紀末、三畳紀末、白亜紀末の5回。 第2章と第3章と終章については、巻末の養老孟司の解説を引く…