本書(1953年発表)は、フランス暗黒文壇の大御所オーギュスト・ル・ブルトンのデビュー作。ただ日本では作者の作品は、「シシリアン」「無法の群れ」の2作品しか出版されていない。本書も2003年になって、ようやくハヤカワ・ポケミス>に加わっている。 1950年代、米国では正統派ハードボイルドと分かれた、ミッキー・スピレーン「裁くのは俺だ」やハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシの蘭」など暴力的な通俗作品が登場していた。それに似たミステリーが、ここフランスでも芽生えていた。代表的なのが本書とアルベール・シナモン「現金に手を出すな」で、両作品とも映画化されてフランスのフィルム・ノワール(暗黒映画)の…