『源氏物語』の新しい物語「宇治十帖」は、「橋姫」からはじまり、「椎が本」「総角(あげまき)」「早蕨(さわらび)」「宿り木」「東屋(あずまや)」「蜻蛉」「手習」と続き、「夢の浮橋」で終わる。 「光」の君の世界から、「夜」「闇」「漆黒」の薫り(薫中将=女三の宮と光源氏との子(実は女三の宮と柏木との不義の子))、匂い(匂宮=明石中宮と今上帝との子)の世界へ。 宇治とは憂路(うじ)でもあろうか。また、ノワールな倒錯の巻物でもある。 以下、『源氏物語』からの引用は、與謝野晶子『全訳 源氏物語』(角川文庫クラシックス)による。 <「橋姫」――濡れる薫の隙見(すきみ)> 「橋姫」は薫二十歳(匂宮二十一歳)か…