方弘は汚い沓を入れた箱を抱えていた。「おい方弘、もっと大事に扱えよ…大事な贈り物なんだから。まったくおまえはがさつだな」「わかってるって、心配するなっつーの」信経と方弘は後涼殿へ向かって、南廂を歩いている。事の発端は殿上の間での方弘のためいきから始まった。「どうした方弘、珍しい。君が悩み事か?元気がないじゃないか。私でよければ聞くぞ」職業柄、面倒見の良さがすっかり身に付いた斉信が、機嫌のいい声で方弘に声をかけた。すると、方弘のそばで話し相手になっていたらしい信経の方が先に答える。「ちょうどいいお方がいらしたじゃないか、方弘。やはり恋の相談事は、その道の手練れにお聞きしてみるもんだ。頭中将さま、…