戦前に全集が出されていても、もはや忘れ去られてしまった文学者や思想家は数え切れないほどだし、それは戦後も同様である。二十年ほど前に、ブックオフで『亀井勝一郎全集』(講談社、全二十一巻、昭和四十六年)を見つけ、一冊百円だったので、気まぐれに購入してしまった。私などの戦後世代にとって、亀井は人生論の著者の印象が強いのだが、戦前は日本浪曼派との深い関係もあり、この全集でしか読めないものが収録されていると思ったからだ。 念のためにこの一文を書くに際して、『日本近代文学大事典』(昭和五十二年)で亀井を引いてみると、三ページに及ぶ立項があり、彼はすでに昭和四十一年に死去していたが、この時代までは著名な文学…