いつの話だったか、もう思い出せない。だが、北京のレストランで知人が見せたやるせない笑みと、短い言葉ははっきり覚えている。 「僕たちは家畜なんですよ」 彼は、当時の平均的な中国人からすれば、恵まれた境遇にいた。日本をはじめ海外とビジネス上のかかわりあいがあり、収入も多かった。1970年代末から始まった改革開放の時代の小さな成功者の一人だった。 しかし、外の世界を知った彼は、政治的な自由がなく、権力が設けた柵(さく)に囲まれて生きる己を悲しんだ。 柵の中は、監視の目が張り巡らされた世界である。ふり、でもいい。権力に従順である限りは安全だが、耐えきれずに大声を上げたり、仲間を集めて騒ぎを起こしたりす…