名も知らない少女に 秋も深まりをみせている。いまだ蚊の残党をみることもあるが、いなくなってきていることはたしかだった。鈴虫がようやく現れ、おもてにかすかな歌を供す。わたしはそれに耳を傾けてみた――こんなふうにたまにはきれいな書きかたをしてみる。わたしはきれいなこころのもち主ではない。穢らわしい、うすよごれたもののひとりに数えられる。あるひとによくいわれたものだ、あんたは酒でだめになった、下品になったと。しかしそれはちがう。誤解だ。公園で寝たり、イエローハットのごみ置き場で寝たり、呑まず喰わずで飯場をめざすようなことが、ものすごくみじめでくだらないことが、多すぎたためだ。それにどうもわたしは幼児…