小笠原一族 松本も六月に入ると梅雨の時期となる。ただ、松本は他県に比べそれ程長雨は続かない。どちらかと言うと曇りの日が多く、時々雨が降るという感じだ。したがって、湿度もそれ程不快ではない。 しかし、その日は昨夜から小雨が降り続いており、安夫は博物館まで傘を差して歩いて来た。すると玄関ホールに傘やズボンの裾を払っている人影があった。 「あっ、先生、おはようございます。すみません、お待たせしました。先生もだいぶ、濡れましたか?」 「おはよう。いや、私も今着いたところだ。よく降るね。まあ梅雨だから仕方がないか」 ふたりは、早速、受付で福島学芸員を呼び出してもらうと、廊下の奥から男性が歩いてきた。 「…