水月ホテル鷗外荘ににされていた森鴎外旧居(根津神社提供) 「ああ皐月(さつき)仏蘭西(フランス)の野は火の色す君も雛罌粟(コクリコ)われも雛罌粟」。明治45年の初夏、歌人の与謝野晶子はパリに到着して、夫の鉄幹と再会した。その喜びを現地で真っ赤に咲き乱れていたヒナゲシの花に託したとされている。 ▼作家の森鷗外もまた、長い冬が終わり、花が一斉に咲き始める欧州の春の美しい情景をたたえていた。陸軍軍医としてドイツ留学した際の日記にこんな記述がある。「家の四隣には桜桃乱れ開く」「菜花盛に開き…林檎花盛に開く」 ▼鷗外の趣味はガーデニングだった。「観潮楼」と名付けた自宅の庭で、公務と執筆の合間にせっせと庭…