「いつまでもつきまとってんじゃねえっ」 野太い怒声と共に、でっかいゲンコツが飛んで来た。 鼻っ柱に世界がひしゃげるような衝撃を感じ、芳夫は意識が飛びかけた。それは何とか保てたが、平衡感覚は粉々になって、思わずよろめき尻餅をついた。 痛む鼻に手をやると、ぬらつく赤い液がベッタリと付いてくる。 殴った男は筋肉質の肩をいからせて芳夫を見降ろしている。 背が高かった。地面にへばった芳夫の方からは、背後の眩しい太陽を味方につけているかのように見えた。 よく見ると男の顔は男らしく整っている。ちょっと濃すぎるきらいはあるが、個性に乏しい芳夫よりは間違いなく男前だった。 芳夫は鼻の奥がジンと痺れて涙がこみ上げ…