病気 病名
20歳前後に一番奥に生えてくる第三大臼歯のことを「智歯(ちし)」といい、「親知らず」とも呼ばれています。最近の日本人は、あごが小さいために、下あごの奥にこの歯の生える場所がなく、正しい位置にうまく生えないことが多いのです。そのため、前の方に傾いて生えたり、横向きに生えたり、歯の一部だけしか顔を出さない時もあります。また、歯はあってもあごの骨の中に潜ったままで、口の中には歯が生えてこないこともあるのです。
うまく生えてこない親知らずは、歯の一部が口の中にあらわれていて、他の部分は歯肉で覆われているので、歯と歯肉の間に深い袋状の隙間ができてしまいます。ここに口の中の細菌や食べカスが入り、細菌が繁殖するとそのまわりに炎症が起きます。これが親知らずの痛みである智歯(ちし)周囲炎です。
智歯周囲炎の初期症状は、親知らずのまわりの歯肉が腫れて、食事の時などに痛む程度です。しかし、それが進むと炎症が広がってしまい、口が開きにくくなり、口を大きく開けると、親知らずのまわりが痛むようになります。さらに顔面や耳のあたりまで痛みが広がったり、飲み込むのも痛みが伴うようになります。また、38〜40度くらいの高熱が出ることもあります。
炎症がもっとひどくなると、あごの下のリンパ腺や扁桃腺が腫れてきます。さらにひどくなると顔が腫れてきたり、炎症が舌の下へと広がって、発熱や痛み、呼吸困難などの症状を伴う口腔底峰窩織炎(こうくうていほうかしきえん)という病気や、細菌が全身にまわって高熱を出したり、皮膚に出血を起こす敗血症になることもあります。
智歯周囲炎は、高校生から大学生ぐらいの年頃に多くみられます。下あごのいちばん奥のあたりが腫れぼったく、口を大きく開けると痛い場合は、この病気を疑って歯科医に診てもらって下さい。口を開いても親知らずがほとんど見えないこともありますが、エックス線写真を撮ると親知らずがあるか、また、うまく生えてくる歯かどうかもわかります。
治療の第一は安静です。炎症を起こしている部分をきれいにして消毒し、細菌を殺す抗生物質や炎症を抑える消炎剤、鎮痛剤を使います。症状は数日で軽くなり、やがて治るのですが、発熱や炎症がひどい時には、入院して治療を受けなければならないこともあります。また、親知らずが正常な位置に生えそうな時には悪い症状が治まってからおおっている歯肉を切って、歯が生えてくるのを助ける処置を受けるといいでしょう。
智歯周囲炎は、歯を不潔にしていることと、疲れや風邪のひき始めなど、体が少し弱っている時に起きやすいのです。高校生や大学生が、試験勉強で寝不足が続いた時などは注意して下さい。正常な位置に生えそうもない親知らずは、痛みや腫れなどの急性症状が治まってから抜いたほうがいいでしょう。そうしないと同じような痛みを何度も繰り返すことがあります。