2013年12月10日発行 時は幕末、御徒町の別所彦四郎は婿入り先から出戻って兄の家にいた。学問もさることながら直心影流男谷道場の免許皆伝まで授かり、婿入り先に不自由はなく、小十人組組頭三百俵高の井上軍兵衛の家に決まった。彼に落ち度はなかったが、妻の八重に男児を授かったとたん、空気が怪しくなり、あからさまな婿いびりが始まった。そして嵌められて離縁され家を追い出された。鬱々とした中、彦四郎は夜鳴き蕎麦屋の親爺から向島土手下の三囲稲荷が霊験あらたかな出世稲荷で、その稲荷に願をかけて川路左衛門尉や榎本釜次郎らは出世したと聞いた。彦四郎は帰途で三巡稲荷を偶然見かけて願をかけた。その話を母にすると、その…