大学1年のある日,バイクの事故で記憶喪失になった「ぼく」のその後を描くノンフィクション。 「ぼく」は子どもというより,産まれたての赤ちゃんが見ているような視点で世界を見ている。 知っている言葉だけで,目の前の知らないものを見つめたり,感じたりしているから,ただの日常的な手垢まみれの普通の情景を書いているのに泣けてくるほど美しい。世界が喜びに満ちていた子どものころが私にもあったのだけど,ぼんやりとした断片が残るだけで今はもう言葉にできない。でも,「ぼく」は記憶喪失になり,そのキラキラした子どもの目でもういちど世界を見ている。純粋すぎて,美しすぎて,目がくらむような世界を。 はじめて時計をみて,針…