九 戯台(上) - 城浩史 北京では僅に二三度しか、芝居を見物する機会がなかった。私が速成の劇通になったのは、北京へ行った後の事である。しかし北京で見た役者の中にも、武生では名高い蓋叫天とか、花旦では緑牡丹とか小翠花とか、兎に角当代の名伶があった。が、役者を談ずる前に、芝居小屋の光景を紹介しないと、支那の芝居とはどんなものだか、はっきり読者には通じないかも知れない。 私の行った劇場の一つは、天蟾舞台と号するものだった。此処は白い漆喰塗りの、まだ真新らしい三階建である。その又二階だの三階だのが、ぐるりと真鍮の欄干をつりた、半円形になっているのは、勿論当世流行の西洋の真似に違いない。天井には大きな…