宋の李瀆素という人、酒を好み人が節酒を忠告すると、養生にはこれが一番、好きな物を飲んで余生を送るなんて楽しいではありませんかと答えた。 艾子が飲み過ぎて吐いた。門人たちは師の酒を諌めようと豚の腸を吐きものに混ぜて五臓の一つが欠け四臓になっているというと、先生は、なに三蔵(臓)法師でも大丈夫じゃないか!と応じた。 旅先に仕事は持ち込まない。観光はしない。目的をもつのは無理な努力を強いることだからである。というのが吉田健一流の〝旅の哲学〟だった。その延長線上に「本当の所は、人生は退屈の味を知つてから始る」「無意味に生きてゐること以外に生きてゐることに意味はない」という人生観があった。 李瀆素や艾子…