中井久夫著「分裂病と人類」の25〜26頁
強迫的な農耕社会の成立とともに、人間は自然の一部から自然に対立する者となったとは複数の人々の指摘するところだが、私(中井久夫氏)はそれと同時に分裂病者が倫理的少数者となったと言いたい。このときからS親和者(分裂病親和者)は、社会にみずからを押しつけようとすれば、「上」へ向かうより他はなくなったようだ。古くは王、雨司、呪医、新しくは数学者、科学者、官僚などに。当然、多くの失調者が予想されよう。ビンスヴァンガーが分裂病者のおかれている事態を形容したverstiegenとは「進退谷(きわ)まるところにのぼってしまう」意というが、彼らの逃げ道は上にしか開かれていないのであるまいか。という困難な状況も予想されます。