内戦続きの中国近代史を書いていて、かなりの頻度で使う単語は「逃げる」、またはそれに類する動詞である。権力者であれ、軍人であれ、形勢が悪くなると、まあよく逃げる。多くの場合、戦わずして逃げる。その速度はすなわち、勝者側の進撃の速度となる。 『清朝滅亡』の第八章では、辛亥革命を書いた。1911年の武昌蜂起から翌年の宣統帝退位まで、わずか四か月しかかかっていない。これは、王朝を守るはずだった者たちの逃げ足がいかに速かったかを物語ってもいる。 * * 湖北省武漢・武昌で革命の火の手が上がった10月10日夜、成り行きで蜂起部隊を指揮することになった呉兆麟は、夜明けまでが勝負と見て、湖北、湖南を統括する大…