曼珠沙華かなしきさまも京の郊 石塚友二。北嵯峨の稲刈りの終った田圃の畦に赤い曼珠沙華が咲き出すとニュースになる。カメラが花の群れに近づけば、どの花の黄緑色の茎もどちらかに傾き合っていて、六枚の細く真っ赤な皺のある花弁は割れひろがる如くに反りかえり、長く突き出した雄蕊と雌蕊は弾けた火花の如くにつんと飛び出し、その五つ六つが茎の先でひと塊になっている。この道や中将姫の曼珠沙華 阿波野青畝。「この道」は奈良の當麻寺(ていまでら)に到る野道であろうか。右大臣藤原豊成の娘中将姫は継母に命を狙われるほど嫌われ、當麻寺で剃髪し、一夜で蓮の茎の糸で曼荼羅を織り、悟りを得た生きたままの中将姫に二十五菩薩が迎えに…