ジョイスの「若い芸術家の肖像」は、同年齢だった自分の感情を記録しているかのような稀有な小説。前回でも、今回の再読でも、スティーブンの言動を通じてその年齢の時の自分がどうだったかを見ているような気がした。老年になってからのふり返りだから、自分のこととはいえほとんど他人のようなものだ。 高校から大学に変わって、とまどうのは自分が自由に過ごせる時間がいきなり増えたこと。どの時間にどの講義を聞くかは自分で決めることになる。一日中いっしょにいるクラスメイトはいなくなり、席も決まっていないから隣にいる人はいつも違う。その結果、どこかの大学や学部に所属はしていても、孤独を強く感じるものだ。そのとまどいは3か…