🪷【古文】 「何か、さしも思す。 今は世に亡き人の御ことはかひなし。 おのれあれば」 など語らひきこえたまひて、 暮るれば帰らせたまふを、 いと心細しと思いて泣いたまへば、 宮うち泣きたまひて、 「いとかう思ひな入りたまひそ。 今日明日、渡したてまつらむ」 など、返す返すこしらへおきて、 出でたまひぬ。 なごりも慰めがたう泣きゐたまへり。 行く先の身のあらむことなどまでも思し知らず、 ただ年ごろ立ち離るる折なうまつはしならひて、 今は亡き人となりたまひにける、 と思すがいみじきに、幼き御心地なれど、 胸つとふたがりて、 例のやうにも遊びたまはず、 昼はさても紛らはしたまふを、 夕暮となれば、い…