『あむ』 愛すべき黒犬 僕がこの本のどこにこんなに惹きつけられるのか、 幾度となく考えたことがあります。 「おれの なまえを、しりたいか?」 「おれは、あむ」 「くろいぬ、あむ」 「あ と む で、あむだ」 と人を食ったような自己紹介で始まる冒頭部分か。 それとも、 飼い主の【かっちゃん】の言いつけを破り、落ちていた生魚を食べた時、 『ハライタだ。ムカムカだ』 『ああ、かっちゃんがいったっけ』 『おちてるものを くうんじゃないって』などと、 全体に漂うリズミカルで歯切れのよい、それでいてどこかアンニュイな文体なのか。 はたまた、 波の音が、 『ザップン シャララ イン シャララ』 踏切近くで …