いさらゐは はやくのことも 忘れじを もとの主人《あるじ》や面《おも》変はりせる by 源氏の君 〜小さな遣水は昔のことも忘れないのに もとの主人は姿を変えてしまったからであろうか 【第18帖 松風 まつかぜ 21】 「一度捨てました世の中へ帰ってまいって 苦しんでおります心も、お察しくださいましたので、 命の長さもうれしく存ぜられます」 尼君は泣きながらまた、 「荒磯《あらいそ》かげに心苦しく存じました二葉《ふたば》の松も いよいよ頼もしい未来が思われます日に到達いたしましたが、 御生母がわれわれ風情の娘でございますことが、 御幸福の障《さわ》りにならぬかと苦労にしております」 などという様…