【🪻古文】 「少納言がもとに寝む」 とのたまふ声、いと若し。 「今は、さは大殿籠もるまじきぞよ」 と教へきこえたまへば、 いとわびしくて泣き臥したまへり。 乳母はうちも臥されず、 ものもおぼえず起きゐたり。 明けゆくままに、見わたせば、 御殿の造りざま、しつらひざま、 さらにも言はず、 庭の砂子も玉を重ねたらむやうに見えて、 かかやく心地するに、 はしたなく思ひゐたれど、 こなたには女などもさぶらはざりけり。 け疎き客人などの参る折節の方なりければ、 男どもぞ御簾の外にありける。 かく、人迎へたまへりと、聞く人、 「誰れならむ。おぼろけにはあらじ」 と、ささめく。 御手水、御粥など、こなたに参…