ほとんどランプの明かりだけがある十畳くらいの 穴倉みたいなジャズ喫茶に、日がな通って閉じこもっていた頃、 ぼくの精神は宇宙空間の中にあった。 自我も主体もなくおそらくは禅のような境地にあったと思う。 現実に生きている世界の方で死ぬ覚悟を決めて、 幽霊というにはカジュアルに気だるいが、それほど衰弱はなく元気というほどでもないが、それでも生き生きと毎日を生きていたと思う。 すでに19歳にはなっていた。 あれから長い長い時間が過ぎて今があるが あの頃と同じこころに戻ることができる。 ぼくが受験生だったころ 6月の空が低く、 灰色に街路が引かれていた 二人の大学生が通り過ぎていくのを 屋根裏部屋の小さ…