「僕の妻もいっしょにいるだけで、家屋の空間を満たしてくれる存在だった。僕は、妻を空間ごと愛していたのです」 猪瀬は、蜷川に会ってから「恋する日常をしましょう」と囁いた。(蜷川有紀、猪瀬直樹『ここから始まる』集英社、2018) おはようございます。恋する日常をしましょうっていう台詞は反則です。まるでよくできた小説の一場面のよう。一瞬が永遠になるものが恋という、辻仁成さんでいうところの『目下の恋人』を思い出します。前段の台詞と合わせて、リアルの世界でこんなことを囁かれたら「事実は小説より奇なり」どころではありません。しかもその台詞を口にしているのが作家の猪瀬直樹さんというのだから、異世界です。 昨…