私は幼稚園生のとき、お遊戯会で「花咲爺さん」を披露した。花形は正直爺さんである。目立ちたがり屋の私はその役を演じたかった。しかし、その役を仰せつかったのは、幼稚園児ながらに顔立ちの整った別の男の子だった。私の役は、意地悪爺さんに鍬で叩かれてしまうポチであった。「キャン!」と言って倒れる演技だ。セリフらしいセリフもない役で大変がっかりしていた。 主役はオレだ。 しかし、私は諦めていなかった。お遊戯の練習のときから、すべての役のセリフと演技を覚え、代役が必要になったときにはいつでも私に言ってくれ、という状態に仕上げていた。本番当日、全員が健やかに役をこなし、私も無事、「キャン!」といって倒れた。本…