〈古文🪷〉 くらぶの山に宿りも取らまほしげなれど、 あやにくなる短夜にて、あさましう、なかなかなり。 「見てもまた逢ふ夜まれなる夢のうちに やがて紛るる我が身ともがな」 と、むせかへりたまふさまも、さすがにいみじければ、 「世語りに人や伝へむたぐひなく 憂き身を覚めぬ夢になしても」 思し乱れたるさまも、いと道理にかたじけなし。 命婦の君ぞ、御直衣などは、かき集め持て来たる。 殿におはして、泣き寝に臥し暮らしたまひつ。 御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、 常のことながらも、つらういみじう思しほれて、 内裏へも参らで、二、三日籠もりおはすれば、 また、 「いかなるにか」 と、御心動かせ…