「幼き人惑はしたりと、 中将の愁へしは、さる人や」 と問ひたまふ。 「しか。一昨年の春ぞ、 ものしたまへりし。女にて、 いとらうたげになむ」 と語る。 「さて、いづこにぞ。人にさとは知らせで、 我に得させよ。 あとはかなく、いみじと思ふ御形見に、 いとうれしかるべくなむ」 とのたまふ。 「かの中将にも伝ふべけれど、 言ふかひなきかこと負ひなむ。 とざまかうざまにつけて、 育まむに咎あるまじきを。 そのあらむ乳母などにも、 ことざまに言ひなして、 ものせよかし」 など語らひたまふ。 「さらば、 いとうれしくなむはべるべき。 かの西の京にて生ひ出でたまはむは、 心苦しくなむ。 はかばかしく扱ふ人な…