私にとって初めてのルシア・ベルリンは、数年前に読んだ「掃除婦のための手引書」だった。よく言えば簡素な、悪く言えば味気ないタイトルに惹かれた。短編集で、そのほとんどが一人称で書かれたものだった。 ルシア・ベルリンは明らかに生活を切り貼りしてものを書く作家である。作り話を書くと、どしても説教臭くなったり哲学めいた思索を披露したり、とかく胡散臭い代物になりがちだけれど、彼女の作品はそうではない。 例えるならば、それはこんな具合である。本を開くと、突然ルシア・ベルリンの世界に放り込まれる。それは薄汚いキッチンの端であったり、病院の受付であったり、荒れ果てた教室だったりする。 そこでけたたましい砂煙に巻…