とても素晴らしい小説だった。いまここに普通にある日常を徹底的に冷静な目で見つめて、これでもかという細かく正確なディテールで描写する筆致に圧倒された。小説家ってすごい、というか滝口さんの観察眼と筆力がすさまじい。 文筆業の父親が3歳の子ども「ももちゃん」と過ごす日々を書いたものなのだけど、なんといっても子どもに対するお父さんの敬意と愛情の深さに胸を打たれる。大人の事情や都合で子ども扱いするのではなく、ひとりの人として接する態度。幼児の思いや行動を、「たぶんこういうことだろう」と大人の解釈で片づけるのではなく、子どもにとってまだ体系づけられていない世界、言語化できない世界であるという前提で、想像し…