無心する人 赤くライティングされた通天閣をうしろにして、スパワールドの大階段を降って、ホテルに戻ろうとしている時。男性に声をかけられた。 「あのー。ちょっとお話いいですか?」 年齢にして50代後半くらいだろうか。ベタついた感じの長髪は乱れていて、痩せて血の気がない顔色。無精髭に、右頬に大きなホクロ、落ちくぼんだ頬に角ばった頬骨が浮き出ている。背丈は160くらい、上下黒のジャージ姿で、カバンひとつ手にしていない。男性は歩道の真ん中で、上半身をコチラに乗り出して、さっきまで全力疾走でもしていたかのような息づかいで、言葉を続けた。 「ホントに申し訳ないんですけど。今、お話していいですか?」 「はい」…