持ちのミウーソフ家で女中を勤めていたころ、モスクワから招聘された踊りの師匠に教えられて、同家の家庭劇場で踊ったようなものであった。グリゴーリイは妻の踊りを黙って見ていたが、一時間後、自分の家へ帰って、少々髪を引っ張って彼女を懲らしめた。しかし、手荒な折檻はそれきりで終って、もうその後一度も繰り返されなかった。マルファもそれからふっつり踊りを断念してしまった。 この夫婦には子供が授からなかった。もっとも、一人赤ん坊ができたが、それもすぐ死んでしまった。グリゴーリイは見うけたところ子供が好きらしかったし、またそれを隠そうともしなかった。つまり、それをおもてに見せるのを恥しがる様子がなかったのである…