森永のビスケットを手に取ってじっと見た。表面には小さな双葉の模様、縁はレースのように波打ち、袋には花や繰り返し模様、そして緩やかな曲線が描かれている。それを眺めているうちに、私は「イギリスの庭園」を思った。 ビスケットといえばイギリス。イギリスといえばお紅茶。そしてお紅茶といえば、自然に夏目漱石の名が浮かんでくる。 漱石はロンドン留学以来、紅茶やアイスクリンを好んだと伝えられている。だがそのイギリスでの時間は、彼にとって甘美なものではなく、むしろ苦悩の記憶として刻まれている。 明治政府に選ばれ、国費でロンドンに留学した漱石。帝国大学の俊英――つまり当時を代表する若きエリートとして、日本を背負っ…