芸術上の傑作は、そこに盛られた内容よりも、とにもかくにも生活に打ち克って作品の体をなしたという事実によってわたしたちに慰めをもたらす。だから何より希望の糧になるのは絶望的な内容の作品である。 テオドール・W・アドルノ『ミニマ・モラリア』 私にはアドルノやベンヤミンの言うことが分からない。彼等を称賛する藤田省三の言うことは理解できるのだが(畢竟、彼の思想は経験哲学である。その点、彼の師である丸山眞男、さらにその師である南原繁とも立場が異なっていた)、どうしても先のフランクフルト学派の二人の仕事は理解することができない。トーマス・マンもヘルマン・ヘッセも彼等の言わんとすることは分かる。もしかすると…