大輔は、大教室に足を踏み入れて驚いた。朝一番の授業は人気がない。みんな朝九時に来るのが苦痛だからだ。今日は「日米外交論」だが驚くべきことに八割方埋まっている。これはどうしたことか?授業開始までまだ30分もある。それに担当の山田教授は遅刻癖があるのだ。 一番後方の席でテキストを取り出してぺらぺらめくった。文字が頭に入ってこない。今朝のニュースを聞いた時のショックがまだ残っている。ぼおっと見渡すと、仲のいい相田聡介と目が合った。彼がこちらに来た。大輔はからかうような調子で言う。 「おやあ、誰かと思ったら。こんな早い授業に来るなんて、雪でも降るんじゃないか」「馬鹿言え、お前こそ、右の首筋にキスマーク…