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アラン・コルバン

(読書)
あらんこるばん

アラン・コルバン。(=Alain Corbin。)フランスの歴史学者。1936年、ノルマンディー地方のオルヌ県の小さな町;「クルトメール」生まれ。(で、2005年10月現在、顕在中。)日本の近代の「百姓」のように、中央市場の運搬人(という力仕事)なども行う、田舎医者の息子で、戦争の始まりそうな緊張状態のフランスを離れて1歳の1937年、この父の出身地であるカリブ海のアンチル諸島に移転するが、アランがマラリアを患い、翌年には同じオルヌ県のロンレ=ラベイに蜻蛉帰りする。
そして実際、「第二次世界大戦」に直面する。日本でも敗戦直後は各要衝の素封家の豪邸は予め計画的に空襲を受けず、接収して取り上げられ、占領軍の宿舎や基地となるが、陸続きのヨーロッパでは有史来、国境は再三再四ぶにゅぶにゅ動き、その度に昨日までは一国一城の主だった者が肩身の狭い居候と換わった。『禁じられた遊び』のような移動劇を繰り広げ、自宅の戸口で地雷を踏んで爆死するアメリカ兵も見ているし、砲弾の爆音や重撃機B-17の接近してくるエンジン音を聞き、硝煙の匂いや廃墟の漆喰の匂いを嗅ぎながら、多感な子供時代を過ごした。
16歳でバカロレアを取得し、ソルボンヌ大学でヴィクトール=リュシアン・タピエに歴史学を、そしてヴラディミール・ジャンケレヴィッチとジャン・ヴァールに哲学を教わり、更にカーン大学でミシェル・ド・ボユアールに中世史を、アンドレ・ジュルノーに自然地理学を、マルセル・レナールに革命史を、アンリ・ヴァン・エファンテールとピエール・ヴィダル=ナケに古代史を習った。
日本の高度成長期の東北地方や北海道からのような、年間6万人にも及ぶ「出稼ぎするリムーザン人」の研究で博士論文を通した後は、アナール学派*としては始めてのPOPな試みである『娼婦』を上梓し、これが大ヒットした。(*他に創始者のフェルナン・ブローデルや、リュシアン・フェーヴル、ジョルジュ・デュビイなどが有名。)

【著作】

  • 『娼婦』(1978)
    • (「娼家か・警察か・病院」と“経済の流れ”の中で三権をタライ回しされる弱小な差別対象を追ったが結局そこに“人生story”は見えなかったと嘆いている。)
  • 『においの歴史』(1982)
    • (1987年に大ヒットしたパトリック・ジュースキントの『香水』という小説はこの本を底本に用いた空想虚構で、その証拠にコルバンがパリで最も嗅覚的な場所だと考えた「レ・アル」が舞台となっている。)
  • 『私生活の歴史』(1987)
    • (モードや規範の垂直進行と、世論が逆説的に生起させてしまう個人意識の物語。但しフィリップ・アリエスとジョルジュ・デュビイ監修のシリーズ本で、コルバンの文は4巻目の『舞台裏』。)
  • 『浜辺の誕生』(1988)
    • (;海水浴なんて現象は極々20世紀に入って以降の話で、オゾンを吸わす新たなサナトリウム的価値もあったが、主には水着とリゾート開発の商業目的で栄えた。)
  • 『人喰いの村』(1991)
    • (1870年の8月16日にドルドーニュ県の小村;「オートフェイ」でアラン・ド・モネイスという貴族の青年が800人もの群集によって2時間もリンチされ、殺された事件の追認作業。)
  • 『音の風景』(1994)
    • (ロンレ=ラベイの鐘から始まる、マリー・シェーファーのサウンドスケープの民俗学的発展 → 日本では中川真が援用して画期的な古都論を近年発表している。)
  • 『レジャーの誕生』(1995)
    • (人民戦線、週40時間労働、有給休暇を巡って1850年まで溯り、あるいは2050年まで展望して「時間の使い方」が考察される。)
  • 『時間・欲望・恐怖』(1991)
    • (毎度その影響を吐露しているゾラやユイスマンス、そしてフーコーを明確に意識して「日記の増大」や「下着の技術史〜宣伝効果」が論じられる。)
  • 『記録を残さなかった男の歴史』(1998)
    • (ノルマンディーの、ルイ・フランソワ・ピナゴという木靴職人を無作為に選んで追跡ルポを実践してみた「実験歴史書」。)

……等々、出す作・出す作、必ずベストヒットに叩き込んでおり、内容は第一級の“読ませる”文献だし、商業的なプロ意識も高い歴史家である。
本人は決して意識したわけではないと断言するが、結果的に「五感の各チャネル」で我々に多層的な夢旅行を誘っており、よく「感性の歴史家」と評される。

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