ウェイブランドの首

山の集落で剣を指南するレウリーが大声で全員の動きを止めた。「これまで！俺は少し出かける」 そう言い残すとクレイバーを呼んだ。木刀を振り、レウリーに斬りかかっていた山の民、皆がレウリーを見つめている。「どこへ行くの？ 」 心配そうなディアマンデイの頭を撫でて微笑む。「他の国の様子を見てくるだけだ。ここで皆と待っていてくれ」 レウリーは強くなるにはどうすればいいか？考えていた。 父ラウリー・ウェイブランドの聖剣ゾーグのように鉄をも切り裂く鋼の剣は持っていない。なら、触れる事さえ出来ない程の体感を身に着けようと山の民に素手で挑み、鍛錬を続けているが、足りないと感じている。 この日から、レウリーは各国…

ローベンから出発して、山脈沿いに西北へ進んだジョウリーと薬草研究家ルマーロ親子は遠くまで見渡せる高い場所に辿り着いた。「うわっ、砂地を進まないで良かった」ジョウリーが大声で言うと、ルマーロも頷いた。「本当に。砂の大地が途切れた先は海で、その先は無いですね」 左前方は連なる山脈が視界を遮り、進まなければ何があるのか？何も無いのか？全く解らない。引き返すべきか？進むべきか？三人で話し合った結果。進む事にした。しばらく歩いて山脈の裏側が見える場所に差しかかった時、三人は声をあげた。「凄い、絶景だ」 そこには、山の麓から海へと続く、緑豊かな草原地帯が広がっていて、様々な動物が駆け回っている。綺麗な小川…

武の大国ラザレフに舞い戻った伝書鳩の足首に括りつけられた文を読んで、シャウザー王がニヤリと笑った。「よくやった。レウリー・ウェイブランドの居場所が絞り込めた。ローベン以外の近隣国といえば限られる。我が国ラザレフから向かって北のローベンの先は来る者を拒む砂の大地。ローベンの西は山脈地帯、東は海。手前の南にアリデ・ラード。ここだ」 側近のケイズが難しい顔をする。「ドラゴンに乗って空へ消えたのですよね？西の山脈地帯を越えれば、ルケッテ、ヴァルゴウルもあります。この二国を囲む山脈西方を知る者はいません。その先の可能性もあります。北の砂の大地の先も、未知の国があるかも知れません。ドラゴンに乗って空を飛べ…

仮面の国ローベンでは、ラザレフ一番隊の男達が伝書鳩の足首にラザレフ宛の文を括り付けていた。「ラザレフから北東へ、ツェストルバンタ、アリデ・ラードを横目に船で進んだ先のローベンでレウリー・ウェイブランドと遭遇。白いドラゴンに乗り空へ消えましたが、ローベン以外の近隣国に居る可能性があります」 レウリーと試合をした事は伏せて、こんな文を書いた。 山の集落で、剣を指南するレウリーにハリドが問いかけた。「レウリーは剣の神様の息子なのか？ 」 レウリーが顔をしかめた。「ああ。そうだ。隠していた訳ではないが、言う必要も感じなかったから言わなかった」 レウリーの顔が少し悲しそうに見えて、これ以上聞けない。「昨…

街を歩くと昼間からお酒を飲ませてくれる店が目に入った。夜にレウリーを見つけた時の事を考えると、泥酔する訳にはいかないが少しだけならと店に入りカウンター席に座った。「何でもいい。度数の弱い酒を一杯」 ジョウリーが頼んだ酒を待つと、隣の席で話す男達の賑やかな会話が聞こえてきた。「今夜の仮面武闘会楽しみだな」「ああ。剣神ラウリー・ウェイブランド亡き今、誰が世界最強を名乗れるか？その候補の一人が誕生するだろうからな」 ジョウリーが眉間に皺を集めた。（ここでも、誰が父さんの次に最強の剣士を名乗れるか？という話で持ちきりか。でも、これはレウリーが出てくる可能性もある） ジョウリーの目の前に酒が置かれた。「…

アリデ・ラードから旅に出た薬草研究科のルマーロとウェッピィの親子は、広大なミントグリーン色の湖を船で渡った。ヴァルゴウルを囲む山脈を東から北へ迂回する路。この路は薬草研究科のルマーロが歩いた事の無い旅路だ。世界地図も存在しないこの世界では、自分自身の過去の経験と知識と、知り合った人々から得た情報以外に何かを探す宛は無い。名前さえ知らない、何の手がかりも無い男を探すには、行った事の無い場所を歩く以外考えられない。 船から降りたルマーロ親子は、馬の手綱を引いて岸辺を歩いた。ルマーロは馬に跨ると、ウェッピィの手を引いて後ろに座らせた。「じゃ、行くよウェッピィ」 遠くにおぼろげに家並みが見える。「まず…

闇ガラスの主だったツスグスは苛立っていた。「何で？どうしてなの？闇ガラスが操れなくなるなんて、考えてもみなかった。何でだあっ」 ジュースを飲み干すとグラスを床に叩きつけた。その音に気づいた使用人の女が、部屋のドアを開いて慌てて駆け付けた。「ツスグスお坊ちゃま、どうされましたか？まあ大変！お怪我はされていませんか？急いで片づけますね」 ツスグスは返事もせずに窓のカーテンを開いて外を眺めた。ツスグスの住む屋敷は、周りを木々に囲まれた森の中に在る。だが、外を見渡しても一羽の闇ガラスも見当たらない。（他の鳥に陰魔術をかけるか？どんな鳥がいいかな？遠くまで飛べる鳥がいいよね？何か居ないかな） と、そこへ…