中尾広道というたった1人で映画を撮り続けている人がいる。家族に愛想を尽かされたり、借金をしたり、生活を破壊しながらも、映画を撮るということに向き合っている人である。そんな彼が懸命に映し出そうとするのは、人間の“生”だ。ゆったりと、しかし着実に日々粛々と歩みを進める人間の営みを丁寧に、そっとカメラに収めていく。草木が揺れ、水の波紋が広がるなどの誰もが目にしているだろうに、誰もが気にも留めない瞬間を大切に、ゆっくりと過ぎていく時間の一部として収めていく。2015年のぴあフィルムフェスティバルにノミネートされ、2016年の調布短編映画祭で奨励賞を受賞した『船』という作品のとあるシーン。 「だからな綺…