ジュリオ・カッチーニ(1550頃ティヴォリ生まれ、1618年フィレンツェ没)。
イタリア、ルネサンス後期からマニエリスム時代にかけて活躍した作曲家。スラヴァが取り上げたことで、一躍「アヴェ・マリア」が人気に。ほかには「うるわしのアマリリ」などの作品で当時からヨーロッパ中で大変に有名だった。アマリリの旋律はピーター・フィリップスによってチェンバロ用に、ヤコブ・ヴァン・エイクによってリコーダー用にも編曲されている。
このように彼の名前を世にしらしめたのは、オペラ「エウリディーチェ」と、2巻からなる「新音楽」と題された旋律美が際立ったモノディ集である。モノディとはその名のとおり、主旋律と伴奏がハッキリとわかれ、同時にその伴奏がポリフォニーによって縛られるものではない、当時ではまったく新しい音楽様式だった。これらの形式は当時の人文主義者たちによって、ホメロスの詩に典拠を求めた「古代の音楽的な理想の再現」であると考えられていた。
こうしたフィレンツェ派と呼ばれた当時の作曲家の中でも、カッチーニは卓越した才能を持っていたといわれる。また、万能人が尊ばれた当時のイタリア上流階級の影響を受け、カッチーニもまたルネサンス末期にフィレンツェや北イタリアを中心に広まったアカデミーやカメラータと呼ばれる知的サロンに出入りした。これらのアカデミーは作家、詩人、哲学者、音楽家によって成り立ち、プラトンのアカデミーを模したものであった。
カッチーニはコルシの宮廷のカメラータのメンバーでもあり、歴史上最古のオペラについての討論に参加し、レチタティーヴォ様式と呼ばれるスタイルの代表的作曲家となる。カッチーニのレチタティーヴォは、後のバロック・オペラを予見するかのような、技巧と装飾によって彩られている。